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野良猫とマスク人間たち

先程京大の構内を歩いていたら道の脇――道の端という訳でもなく真ん中という訳でもなくその間ぐらい――にダンボールか何かが横たわっている。気にせずすぐ横を通り過ぎるつもりで歩いていくと、横たわっているのは何だかダンボールじゃなくて…なんだ…猫だ、と思った瞬間に猫もこちらが遠慮なしに近づいていくるのに気づいて、びっくりして背筋を伸ばし立ち上がりかける。僕もびっくりした。猫もびっくりした。お互いにびっくりした。目が一瞬合ったが、微妙に進路の角度を変えて速度は変化させず何事もなかったの如く通り過ぎる。猫はそのまま再び道の真ん中に寝そべった。

猫は人間を大きな猫か何かのように思っているという話がある。嘘か本当かは知らない。目があって鼻があって口があって、だから人間が自分の顔と猫の顔が対応していると思うように、猫も人間の顔を自分の顔に対応付けて理解しているのだろう。人間同士が互いの顔の共通要素を認識するように、猫同士も互いの顔の共通要素を生来の本能で認識している筈で、だとすれば人間と猫の間でも相互に共通要素を認識してしかるべきなのである。

しかし昨今は人間は皆一様に外ではマスクをしている。猫はマスクをしている人間をどのように認識しているのかかなり謎である。野良猫はマスクの下に鼻や口があるとは知るまい。だとすれば、のっぺらぼうか何かがずんずんと歩いているぞといった具合に捉えているのかもしれない。以前からマスクをしている人間は少なからずいたと思うが、最近になって皆マスクになって口や鼻がなくなってしまったことを、野良猫たちがどの様に受け止めているのか気になる。